Netdayクラブ −情報ー | |
8.今後の活動の課題
本節では、今後スマートスクールの活動を拡大し展開していく中で、課題とテーマについて考察し、課題解決の方法を提起する。
(1)コーディネーターの発掘
ここでいうコーディネーターとは、3つの役割がある。
学校コーディネーターは一般的には情報教育担当教諭、まれに校長や教頭という管理職がそれにあたる場合がある。ネットデイでは、学校の要となり、連絡・調整に負担の大きい役目だ。
一般教諭の場合、ネットデイ開催に意欲はあってもなかなか職権がないので、その思いは表面に出てくることは少ないが、その潜在的な数は相当数に上ると思われる。またネットデイが今後一般化するにつれて、その数はさらに増加するだろう。
彼らを発掘するには、教師間のネットワークでその意志を確認し、ネットデイ開催を告知し参加させたり、教育委員会が後援するセミナーやフォーラムに参加させたりして、まずは学校から一歩踏み出したところで、ネットデイ関係者と接触させることだ。ネットデイが近隣の学校で実施されることになると、学校内にも動きやすい環境ができる。
地域コーディネーターは、ネットデイを開催する学校の校区で、ボランティアのリーダーとなる存在。ネットデイを何度か経験していると、その事前の準備が見えてくる。これを学校コーディネーターと二人三脚で仕上げるのが役目。時間があれば学校に出向いて、ボランティアと学校との意識の溝を埋めたり、PTAとネットデイまでのスケジュールを確認しあって調整します。ネットデイ後のフォローアップについても、中心的な役割を担い、学校を支援します。
工事のことはわかっていても、なかなか人をまとめたり、交渉するのが不得手な人には難しいので、適任とおもわれる人がいたら、先輩コーディネーターが一緒に対応することで育成していくことが必要だ。
総合コーディネーターは、ネットデイ・リレー全体を統括・指導する業務を行う。ネットデイ起案の時から関わり、複数の地域のネットデイのために、多数の学校コーディネーター、地域コーディネーターとの調整が役割。行政、議会、教育委員会、ボランティアなどと交渉・調整ができ、教育のことに明るく、多くのネットデイでのコーディネートの経験がある人物。地域の青年会議所や商工会議所青年部には、かならず上記のような人物はいるので、まずは人捜し。
(2)ネットデイへのコンセンサスづくり
「ネットデイは関係するみんなにとってありがたい」ということを、しっかりと周知する必要がある。行政には、議会で質問をしてみるのもいい。学校にはPTAから投げかけてもいい。互いに積極的にネットデイに取り組むことで、行政は安価な予算で設備が整い、学校は情報教育の環境が充実するし、PTAはこれまでにはなかった貢献の方法を入手できるし、ボランティアは楽しく充実した一日を学校で送ることができる。そして、このネットデイという協動作業が、学校を支援する新たな仕組みを生み出す。
本来はこんなにおいしい話はないのだが、残念ながら日本の社会システムはそんなに柔軟にはできていない。ひとりひとりができることを積み上げながら、マスコミを使ってネットデイ自身を広くPRしていくことが必要だ。まだまだ社会の認知を得られるところまでは至っていない。
(3)学校現場、PTA、行政、ボランティアの連携づくり
このシステムがもっとも上手く動いているのが、群馬県前橋市のインターネットつなぎ隊だ。行政、ボランティア、学校現場に、卓越したキーマンが存在し、学校の工事を教育委員会がボランティア団体に委託している。高価な測定器や工具類などは、教育委員会が用意し工事の際に貸し出している。ここまでの連携がとれる地域は、ざんねんながらまだない。
これまでのネットデイ・リレーでは、学校現場、PTA、ボランティアの連携は取れてきた。しかし行政となると、市川町のような協力的な自治体でも、他校とのバランスがあり、諸手をあげてというわけではない。行政の横並び意識と、教育の平等(だから特別扱いはできない)という概念から抜けないと、行政と連携するのは難しい。教育委員会へのアプローチは続けながら、ネットデイを開催した学校長や教員が教育委員会に入り、ネットデイ推進の原動力になることを祈っておく。
(4)適切な外部支援
ネットデイの主役は、まぎれもなく学校現場の教職員である。そしてPTAや地域住民が学校を支える。外部のボランティアは、その隙間をそっと埋めるのが役割だ。滋賀大学付属小学校のネットデイに参加して、あまりに学校の教師、PTA、地元住民の数が少ないのに驚いた。外部のボランティアが廊下を闊歩しているのに、地元の顔が見えない。徐々に教育関係者に浸透してきつつあるネットデイには、やはりありがちなことだ。ただこれではただの、「安い配線業者」になってしまう。はりまではどの学校でも、PTAが組織的にネットデイにかかわってくれることで、地域住民も一緒に動いてくるという傾向がみられた。配線を敷設することにこだわるのではなく、この部分のコーディネートを学校側に任せてしまわないで、全員が協動作業を意識して頻繁に相談しあうことが大切だろう。
(5)PCの入手と設置
ネットデイはやったものの、情報コンセントの先につなぐパソコンが段取りできなくては、学習に結びつけようとおもってもそれはできない。一般的に、下記のような方法があり、それぞれ問題点も抱えている。
・ 地元の個人から寄付を受ける
この場合に限らず、一番に問題になるのは「寄付扱い」にしなくてはならないということ。寄付扱いになると、備品として学校が管理する必要性が出てきとても大変だ。帳面上は「知らない間にそこにあった」とせざるを得ない。学校行政側は、旧式パソコンのドネーションのために、通常と違う認可の方法を考えて欲しい。
もうひとつは製造物責任。最後に廃棄するのは、最終の所有者ということになる。つまり学校側に廃棄責任ができ、大量になると学校費用を圧迫する事態も考えられる。上記の解決策ではあるが「譲り受ける」のではなく、「お借りしている」とか「置いてあげている」というスタンスでいることが望ましい。
・ 地元企業からの寄付を受ける
地域貢献をしようという企業が、今後ネットデイが認知されてくるにつれて、多くなってくる。ただ、企業からの寄付については、その税務処理に何ら優遇措置がない。それでも寄付してくれる企業はあるだろうが、「学校に寄付する時は、帳簿上の残高を損金処理できる」というような優遇措置を米国並みにとれれば、企業からの寄付は一気に増えることになる。企業からの寄付は、組織的な協力に直結する可能性があり、大変注目される。
・ 行政からの整備を待つ
これが一番可能性が低いと思われる。税収が減少し、それが好転する気配もない中、教育予算も聖域ではない。数年ごとに更新していかなくてはならないパソコンルームも抱え、なかなか予算を待つのは難しい。
・ その他
OSの利用の問題もある。当初からOSがバンドリングされている機械なら、そのまま利用してもいいだろうが、別売の場合は相当数のオリジナルライセンスを購入する必要が出てくる。LINUXなどのフリーOSを利用する方法もあるが、まだ一般的ではない。
(6)校内LANのセキュリティ対策
「シリコンバレーの学校で今大変困っているのは、セキュリティに関する問題です」と、スマートスクールのテクノロジーコーディネーターをしている道下氏からメールがあった。セキュリティとは、ひとつはセキュリティ教育のこと。IDとパスワードを書いたポストイットを画面に貼っているというのは茶飯事で、サーバーが見えないからと、わざわざセグメントを分離されている職員室で生徒に日常作業をさせている先生。セキュリティに対する教育が急務であることは明らかだ。このままではきっと、ネットデイや行政の手によって校内LANが敷設された学校では、遠からず大きな問題が出てくるに違いない。
このルールやマナーのセキュリティ教育についてのガイドブックが、電子ネットワーク協議会から発表されている。こども版と教師・保護者版にわけてあり、大変わかりやすい内容になっている。このような啓蒙活動を、地道に続けていくことで、大人も子どもも安心して暮らせるネットワーク社会を作らなくてはならない。
(URL: http://www.enc.or.jp/enc/code/rule4child/ )
もうひとつは、セキュリティのために物理的にセグメントを分離するという方法だ。小学校で言えば、(1)一般教室、(2)職員室、(3)校長室・事務室、(4)学校開放系という、おおきな4つのセグメントに分離する必要がある。今回のネットデイでは、このセグメント分離が行えるように配線計画を考え、将来セグメント分離をするルーターの位置のHUBをセキュリティルーターと呼び区別した。
ただ、このセグメント分離を行うための機材は高価で、細かな設定のできないVLAN(バーチャルLAN)対応のHUBにしても値下がりして20万円近くする。今回、パソコンにFreeBSDを入れて、細かな設定までWEBでできるというスマートルーターを設計しており、今年度中には参加校5校に設置を予定している。このスマートルーターは、市販価格を10万円以下と想定している。
(7)ネットワークの保守体制
この場合の保守は、ネットデイで配線工事したネットワーク自体の保守と、従来からあるパソコン教室のコンピューターなどの保守に分けられる。
ネットデイ配線工事の保守については、特段の体制は組んでいない。もしも切り分けによってケーブルの不具合が疑われたら、高機能LANケーブルテスターを用意しているので、いつでも貸し出して検査することができる。また、ネットデイでボランティアに協力してもらった地元の電気工事業者の方などが、学校の設備維持に協力してくれ、また学校の教職員も少々の切り分けができる程度のスキルをネットデイで養った人がいるので、さして問題はないと考えられる。
しかし、TCP/IPネットワークで設計してあった姫路市の学校では、学校内だけの利用を前提としていたので、各校同一アドレスをつけおり、IPアドレスの付け替えが発生してきた。これはコンピューターだけではなく、プリンターやスキャナーサーバーなどの周辺機器も設定変更を行う必要がある。
ここで問題なのは、勝手にIPをいじって起こった障害については、契約しているメンテナンス業者の業務範囲外となることだ。ボランティア側は学校内の設備についてはドキュメント以上の情報がなく、情報教育担当のスキルが低い場合には、その解決に大変な労力を要することになる。
そこで姫路市では、メンテナンスを行っている会社と相談して、学校をサポートする仕組みを下記のように合意して、3月より実施する。(資料4-10参照)
図4-5 地域テクノロジーコーディネーター
学校のコンピュータにトラブルが発生し、情報教育担当による回復が困難な場合には、地域テクノロジーコーディネーター(以下、地域TC)に調査をメーリングリストに投稿して依頼する。地域TCは原因を切り分けて、メーリングリストで回答、または現地で調査後、メーリングリストに対策を報告する。
場合によっては、他校の地域TCが回答する場合もあるし、直接保守会社CEがアドバイスすることもある。メールや電話対応及び地域TCで対応できない状態の場合のみ、保守会社CEが動くこととする。
このシステムを運用することにより、情報教育担当と地域TCの技術交流により、互いのスキル向上が図れ、メーリングリストはそのままFAQ集として機能する。保守会社CEの負担も軽減される。
当初は、本実験参加校3校と、わんぱくちびっこ情報団2000参加の17校をあわせた20校が対象で、地域TCは主に校区に居住する他校の情報教育担当と、スキルの高いネットデイボランティアで構成される。
(8)情報管理者の育成
学校アンケートの自由記述欄にも、情報管理者の育成の必要性と、その課題としての「予算」「時間」についての指摘があったが、従来の教育者指導の枠の中ではなく、the Internet school や地域テクノロジーコーディネーターの仕組みをきっかけとして、その都度必要な知識やノウハウを蓄積する育成システムの体系的構築が可能となるだろう。